昼前からぶっ通しで作業をしていたので、さすがに疲れてきた。とはいえ随分と集中していたような気がする。なにせ外は真っ暗で、もう虫の声しか聞こえてこない。
あとひとつ、あとひとつと粘ってしまうのは明日の自分に楽をさせるためだ。
そう思いながらも途切れてしまった集中力はどうにもならず伸びをした。肩甲骨あたりから酷い音がする。
「まだいたのかテメーは」
入り口からひょっこり覗いてきたのは我らがリーダー千空くんだ。毎日朝から晩まで働き詰めの彼には頭が上がらない。
「あとちょっとなんだけどね……これが、なかなか……あれ?」
「ったく、どれだ」
無遠慮に至近距離まで近付いてきた彼に他意は一切ない、はずだ。
「もーちょい手ぇ上げろ。暗くて見えねえ」
「は、はい……」
なんかキミおかしくないですか?距離感が……なんて言えるわけもなく、私は大人しく座っているしかない。
上げろと言いながら問答無用で掴まれて持ち上げられた手と、その真横にある千空くんの顔を交互に見比べてしまう。
不意に私の手元を凝視していた千空くんがこちらを見た。これは完全に不意打ちだ。
かけるべき言葉も見つからず、無言で見つめあうこと数秒。先に口を開いたのは千空くんだった。
「やっぱ今日はもうやめとけ」
「えっ?あ、ああ、そうだね。そうだよね……もう集中力尽きたっていうか、邪念が……」
「……邪念?」
「なんでもないですよう」
千空くんのことだ。人の気も知らないで「目の下シワシワだぞ」とか言うんだろう。どうせならもうちょっと元気な時に見つめあいたかったな。
いそいそと片付けを始めた私の様子を見て撤収を悟ったのか、千空くんも引き上げるようで「あー、なんか食うか」なんて一人でブツブツと言っている。
「いってら〜」
「いや、いってら〜じゃねえわ。テメーに言ってんだわ」
「私??」
「どうせ朝からなんも食ってねえんだろ」
そうだったかもしれない。朝はあまり食欲がないのでほどほどに済ませて、それから水以外何も口にしていない。
思い出すと急激にお腹が空いてきた。そして二人だけの空間に鳴り響く、空気の読めない腹の音。
「わ、笑わないでよ〜!」
優しくていじわるで素直じゃない千空くんは、そのまましばらく肩を震わせていたのだった。
2020.9.5
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